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最高裁判所第二小法廷 平成4年(あ)13号 決定

本店所在地

埼玉県大宮市高鼻町一丁目四九番地

明和地所建設株式会社

右代表者代表取締役

石関美智子

本籍

埼玉県大宮市三橋六丁目一五九三番地の六

住居

同 与野市大戸六丁目一二番四号 石関智恵子方

不動産会社経営

石関建治

昭和一八年六月二日生

本籍

浦和市本太五丁目四〇番地

住居

同 大字大谷口一六二九番地 浅野裕美子方

会社員

恒川清

昭和八年三月一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成三年一一月一八日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人嶋田雅弘、同野田宗典の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)

平成四年(あ)第一三号

上告趣意書

被告人 石関建治

同 恒川清

同 明和地所建設株式会社

代表取締役石関美智子

右の者に対する各法人税法違反被告事件についての各上告趣意は、次のとおりである。

弁護人 嶋田雅弘

同 野田宗典

最高裁判所第二小法廷 御中

第一点 被告人らは、いずれも無罪であり、原判決は判決に影響を及ぼすべき重大なる事実の誤認であり、これを放棄しなければ著しく正義に反する。

一 本件は、被告人明和地所建設株式会社(以下「被告会社」という。)の昭和六一年六月一日から同六二年五月三一日までの事業年度内における被告会社所有の〈1〉大宮市土手町所在の土地(以下「土手町物件」という。)及び〈2〉大宮市宮町所在の土地及びその地上建物(以下「宮町物件」という。)の二回の不動産取引の契約当事者のうち被告会社より購入したものは法律上誰なのかの事実の認定如何により、法人税法違反の犯罪の成否が分かれる事案である。

すなわち原審は〈1〉の土手町物件の被告会社から購入したものとして銀二土地株式会社と認定し、〈2〉の宮町物件の被告会社から購入したものとして日特不動産株式会社と認定しているが、いずれも契約書の形式を全く無視したうえ、不動産会社の取引の実体を知らない誤った判断をしている。

二、1 まず〈1〉の土手町物件の被告会社から購入したものが誰かを検討する。

(一) 契約当日の事情について

(1) 契約の当事者はその契約の際、決められるものであり、口約束でもよいが通常契約書が作成される。被告人石関建治の検察官に対する平成二年七月一一日付供述調書添付の土手町物件の売買契約書は二通ある。一つは売主被告会社と買主茅部商事株式会社との間の売買契約書であり、もう一つが売主茅部商事株式会社(以下「茅部商事株式会社」という。)と買主銀二土地株式会社(以下「銀二土地」という。)との間の売買契約書である。いずれも実印による押捺がされており、法律上、右売買契約の当事者が真の当事者であると推定されている。

他方、売主を被告会社とし、買主を銀二とする契約書は全く存在しない。

(2) (1)記載の契約書締結の昭和六一年一〇月二四日、被告会社の事務所には、最終買受人銀二土地側の高崎社長他二名、第一売主である被告会社側の被告人石関建治他二名の他、第一買受人であり最終買受人に対する売主である茅部商事株式会社の側として被告人恒川清が集まっている。茅部商事株式会社かダミー会社なら被告人恒川清が契約に立会い、記名捺印をする必要はない。

(3) (1)記載の売主茅部商事株式会社と買主銀二土地の土手町物件の売買契約書は買主銀二土地が準備した売買契約書であり、買主銀二土地は売主を茅部商事株式会社とする意思を有していたことが明らかである。

しかも、当時茅部商事株式会社が既に解散になっていたにもかかわらず(法律上、解散した会社も権利主体となり得る。)銀二土地は茅部商事株式会社より土手町物件を購入することを強く希望している。

(4) 昭和六一年一〇月二四日授受された手付金金一〇万円は銀二土地から茅部商事株式会社に対し支払われており、その旨の領収書もある。

(5) 昭和六一年一〇月二四日の当日、茅部商事株式会社がダミーであり、真実は被告会社から銀二土地に対する土手町物件の売買である等の話は一切されていない。

要するに昭和六一年一〇月二四日の土手町物件の売買の際の客観的証拠からすれば、土手町物件の売買が被告会社から銀二土地に対するものであるとする証拠は一切存在しない。

(二) では昭和六一年一〇月二四日以前の事情を検討してみると、

(1) まず、埼玉県知事に対する土手町物件の昭和六一年九月三〇日付土地売買契約届出書には当事者として譲受人に茅部商事株式会社が、譲渡人に被告会社が記載されている。

(2) 国土法上、被告会社が土手町物件を坪六五〇万円で売る場合、直接銀二土地に売ることができず、第三者に一旦売却せざるを得なかった状況であった。

(3) 銀二土地の仲介者より被告会社に対し、土手町物件の購入希望が申し入れられた直後より被告会社は第三者に一旦売却し、その第三者が銀二土地に土手町物件を売却する意向を申し入れ銀二土地側も了承していた。

(4) そして不動産取引においては、契約締結直前まで買主が誰かを明らかにしないとか、契約締結直前になって第三者を中間の売買当事者として参加させるとか、更に契約締結直前になって買主の次の買主も契約に参加し、中間省略登記を行う等契約の当事者に変動が生じることがよく行われている。

今回の被告会社の土手町物件の売却もその一例であると銀二土地側は考えていたのである。

以上のように、昭和六一年一〇月二四日以前においても、被告会社から茅部商事株式会社に対し、土手町物件を売却し、更に茅部商事株式会社から銀二土地に対し、売却される段取りになっていた。

(三) 昭和六一年一〇月二四日以降の残代金の決済も全て銀二土地から茅部商事株式会社に対し支払われ決済されている。

2 では、被告会社の当時の代表取締役被告石関建治は、茅部商事株式会社に対し、真に土手町物件を売却する意思を有していたのであろうか。

前記1記載のとおり、契約書等や銀二土地との間のやりとりからすれば、当然、被告人石関建治は茅部商事株式会社に対し、土手町物件を売却しているとの認定がされる。そして被告人石関建治の内心においても同様の心理が存在していた。

(一) 被告人石関建治は土手町物件が国土法の規制上、銀二土地が購入希望している坪六五〇万円の単価では売買ができないため、どうしても第三者を一回通さなければならなかった。その際、関連会社をその第三者として通せば、国土法の規制もクリアーすることができるし、銀二土地の希望単価坪六五〇万円の利益もその関連会社に帰せしめることができたのである。被告人石関建治と国土法の規制上やむを得ず土手町物件を第三者に一旦売却する決心をしている。したがって、ここには被告人石関建治は脱税の意思等全く存在しないのである。

(二) そして、被告人石関建治は(一)記載のとおり、土手町物件を銀二土地に売却する前に、第三者に一旦売却しなければならないのであるなら、日頃より親しくつき合いをしている被告人恒川清に儲けさせてあげたいという気持ちを抱くに至った。被告人石関建治は、被告人恒川清の借金苦の窮状を日頃から見るに見かねていた。被告人石関建治は被告人恒川清に対し、父親にも似た愛情も抱いていた。ここで被告人石関建治は、被告会社が土手町物件を第三者に一旦売却しなければならないのであるから、見ず知らずの第三者に売却してこの第三者を儲けさせるより被告人恒川清が勤めている会社をその第三者に選定し、被告人恒川清に儲けてもらうことを決めたのである。ここにおいても被告人石関建治は土手町物件の売却で脱税しようとする意図はなかった。

(三) ただ、被告人石関建治が被告人恒川清との間で土手町物件の茅部商事株式会社への売却の話をした際、被告人恒川清より茅部商事株式会社の税金を圧縮できる旨の説明がなされている。しかしこれは茅部商事株式会社の税金問題であり、被告会社の税金問題ではなかったので、被告人石関建治はほとんど気にしなかった。

(四) 問題は、被告人石関建治と被告人恒川清との間で利益を折半にする約束をした点である。

これは、被告人恒川清の努める茅部商事株式会社が赤字会社であるため、被告人恒川清が土手町物件の売却によりほとんど税金を支払わないで済むものと即断していたことから、利益の二分の一を被告会社にバックマージンとして戻す約束したものと評価できる。すなわち、被告人石関建治にしてみれば、被告人恒川清の勤める茅部商事株式会社がどの程度赤字なのか知らないが、被告人恒川清に儲けさせる代わりに、その利益を戻してもらうのであるなら、被告会社の裏金として残せると考えたのである。被告人恒川清より「折半」と言われた際、被告人石関建治にしてみれば随分多く戻してくれるなという感じであった。被告人恒川清から一〇パーセントを戻すと言われれば被告人石関建治はそれでもよかったのである。

したがって、被告人石関建治にしてみれば飽くまで被告会社から茅部商事株式会社への土手町物件の売買は正規の取引であり、その時のリベートないしバックマージンが裏金になるという認識であった。

三 次に〈2〉の宮町物件の被告会社から購入したものが誰かを検討する。

(一) 契約当日の事情

(1) 契約の当事者は、法律上はその契約の際、決められるものであり、口約束でも足りるが、通常は契約書が作成される。被告人石関建治の検察官に対する平成二年七月一二日付供述調書添付の宮町物件の売買契約書は二通ある。一つは売主被告会社と買主株式会社茅部商事(以下「株式会社茅部商事」という。)との間の売買契約書であり、もう一つが売主株式会社茅部商事と買主日特不動産株式会社(以「日特不動産」という。)との間の売買契約書である。そしていずれも実印が押捺されており、法律上、各売買契約書の当事者として記載されたものが真の当事者である推定を受ける。売主を被告会社とし、買主を日特不動産とする売買契約書は全く存在しない。

(2) 1記載の契約締結の昭和六一年一二月九日、日特不動産大宮営業所には、売主被告会社から木部専務が第一買主であり日特不動産への売主である株式会社茅部商事からは、被告人恒川清とその息子であり株式会社茅部商事の社員の恒川雅彦が最後の買主である日特不動産からはその社員武藤大宮営業所の所長がそれぞれ参加した。株式会社茅部商事がダミー会社なら被告人恒川清や社員の恒川雅彦が参加し、契約書に記名捺印する必要は全くない。

(3) そして、株式会社茅部商事と日特不動産の売買契約書には、株式会社茅部商事の代表取締役である被告人恒川清が自ら記名押印をしている。

(4) 株式会社茅部商事と日特不動産の宮町物件の不動産売買契約の手付金二億五、〇〇〇万円は、当日、株式会社茅部商事が受領し、領収書を作成している。

(5) 昭和六一年一二月九日、日特不動産を交えた契約の際、株式会社茅部商事から日特不動産への宮町物件の売買は真実ではなく、株式会社茅部商事がダミー会社である等の話は一切されていない。

要するに昭和六一年一二月九日の宮町物件の売買の客観的証拠からすれば、宮町物件の売買が被告会社から日特不動産に対するものであるとする証拠は一切存在しない。

(二) では昭和六一年一二月九日以前の事情を検討してみると、日特不動産から被告会社に対し、宮町物件を坪単価金五九〇万円で購入したい旨の申し入れがあったが、直ちに被告会社より仲介者である株式会社新日本コンサルタントの加藤に株式会社茅部商事を中にいれて最終的に日特不動産に売る意向を打診したところ、加藤はすぐに了解した。不動産取引においては契約の成立に至るまで売買の間に第三者が加わることも日常行われており、株式会社茅部商事が参加するのもその一例であった。

以上のとおり、昭和六一年一二月九日以前においても、被告会社から株式会社茅部商事に対し、宮町物件を売却し、更に株式会社茅部商事から日特不動産に対し売却する段取りになっていた。

(三) 昭和六一年一二月九日以降の残代金の決済も全て日特不動産と株式会社茅部商事との間で行われている。

2、では、被告会社の当時の代表取締役被告人石関建治は株式会社茅部商事に対し、真に宮町物件を売却する意思を有していたのであろうか。

前記一記載のとおり、契約書等や日特不動産との間のやりとりからすれば、当然被告人石関建治の意識は株式会社茅部商事に対し、宮町物件を売却しているとの認定がされる。そして被告人石関建治の内心においても同様の心理が存在した。

(一) 前記2(二)記載のとおり、被告人石関建治と被告人恒川清には親子に似た特殊な関係があり、被告人石関建治は被告人恒川清に機会があれば儲けさせてあげたいと思っていた。

そんな折、被告人恒川清は茅部商事株式会社の柴田より独立し、株式会社茅部商事を設立した。被告人石関建治はこの被告人恒川清がせっかく株式会社茅部商事を設立したのであるから仕事の上で儲けてもらうことを考えた。すなわち、独立祝の意味を含め株式会社茅部商事に利益を与えようと考えたのである。

(二) 被告人石関建治と被告人恒川清は宮町物件の取引を被告会社から株式会社茅部商事へ売却することで合意し、その際、株式会社茅部商事から被告会社へ裏金としての相当額のバックマージンをすることも暗黙のうち合意した。

被告人石関建治にしてみれば株式会社茅部商事が架空経費の計上で株式会社茅部商事の利益を圧縮するであろうことは予想したが、それは株式会社茅部商事の問題であり、被告会社の関知することではなかった。被告人恒川としても宮町物件を被告会社から株式会社茅部商事に売却してもらい、それを日特不動産に売却すれば株式会社茅部商事に税金がかかることも百も承知であった。

すなわち、被告会社から株式会社茅部商事に対する宮町物件の売買が正規の取引であるから被告人石関建治は税金問題は株式会社茅部商事の問題であると思い、被告人恒川清も株式会社茅部商事が税金を払わなければならないからその利益の圧縮を図ろうと考えたのである。

(三) 被告会社の専務木部賢一の検察官に対する平成二年七月一四日付供述調書の中でも木部は「利益は、裏でバックさせてその利益を当社に確保するのだと思いました。」「恒川さんが何らかの方法で税金をごまかすことになると思ったのですが」と述べており、飽くまで被告会社から株式会社茅部商事への宮町物件の売買は正規の取引であり、株式会社茅部商事から被告会社に対バックマージンがあるとの認識であった。

宮町物件でどの位のバックマージンが株式会社茅部商事から被告会社に渡されたのか必ずしも定かではないが、原審が被告会社から株式会社茅部商事への宮町物件の売買を架空取引と認定したのは明らかに誤りである。

四、以上二及び三記載の結論として明らかなことは、土手町物件及び宮町物件の被告会社と茅部商事株式会社及び株式会社茅部商事の各不動産売買取引はいずれも正規の取引であり、ただ、茅部商事株式会社及び株式会社茅部商事から被告会社へのバックマージンが裏金であっただけであり、バックマージンの利益計上を被告会社がしなかった点は脱税のそしりを免れないが、本件公訴事実に関する脱税は全く存在しない。

第二点 原判決の量定が甚だしく不当であって、これを破棄しなければ著しく正義に反する。

一、被告人石関建治について

1 被告人石関建治は、前記第一点のとおり土手町物件及び宮町物件の茅部商事株式会社及び株式会社茅部商事との不動産売買取引を正規の取引と思っていた。

これが正規の取引でなければ何故被告人恒川清に合計七億数千万円もの利益が生まれるのか。

第一点記載のとおり、原審が右の二取引を架空取引と断定したことは到底承服できるものではないが、仮に一〇〇歩譲って右二取引が架空取引であるとの最終的判断を前提にするにしても、尚、この二取引が解釈上、架空取引と最終的に判断されたに過ぎず、解釈上はこの二取引が正規の取引であったとの判断の可能性が充分にあった事実は重要である。すなわち、税務上の解釈は各税務署長毎に取扱が異なったり、契約書等の書類面より実体を重視する等、多くの解釈上の争点を生み出している。大企業が国税当局より巨額な申告漏れを指摘され、重加算税を払っている場合、逋脱税の問題もあるが、解釈上の争点があるため脱税事犯とはされなかったケースが多々ある。

本件も同様に、被告会社と茅部商事株式会社及び株式会社茅部商事との土手町物件及び宮町物件の不動産売買取引については真実の契約であったのか否かという解釈上の争点がある。

脱税事犯というものは刑事事件であるが、その前提として民法その他の私法上の判断が不可欠な刑事事件である。

本件の売買、被告会社から茅部商事株式会社及び株式会社茅部商事への土手町物件及び宮町物件の売買と茅部商事株式会社及び株式会社茅部商事から銀二土地及び日特不動産への売買には、契約書・領収書上もその旨の内容となっている。しかも所有権移転登記の中間省略登記の合意もされている。民事裁判では、ほぼ一〇〇パーセント被告会社から茅部商事株式会社及び株式会社茅部商事に売買され、更に銀二土地及び日特不動産に売買されたと判決されるであろう。このように私法上の解釈では被告会社から茅部商事株式会社に対し、土手町物件が売買され、所有権が移転され、被告会社から株式会社茅部商事に対し、宮町物件が売買され、所有権が移転されたと認定される可能性が極めて高いのであるから、被告人石関建治が被告会社と茅部商事株式会社及び株式会社茅部商事の各取引を正規の取引と思い込んでいたのも理解できるところであり、このように、解釈により脱税とされたり節税とされたりするのであるから、解釈上、最終的に脱税と評価されたとしてもその解釈上の問題点を充分量刑において評価しなければならないはずである。

原審は「その手段として茅部商事株式会社等を関与させて行われた本件各取引が一見して明白なダミー利用による仮装行為であることは所論も認めているところであり、その当事者である被告人石関両名も当然これを知悉していたことが明らかである。・・・・被告人両名の取り分がそれぞれの刑責を決する上でも斟酌されるべきであるという以上の意味を有しない」と判示している。とするなら明白なダミー利用による仮装行為でないのであるなら、充分情状におてい被告人両名の刑責を考慮しなければならないことを暗に示している。

2 一審判決と原審はその量刑理由においてかなりの差が見られるが、量刑は一審判決も原審も同一である。これは原審が量刑理由に対応した量刑をしていない事実を物語っている。

すなわち原審は「被告人石関は〈1〉日頃から親交のある被告人恒川から暴力団による借金の取立に悩まされている窮状を訴えられ、同被告人を助けてやりたいとの気持ちも働いていたこと、〈2〉勾留七日目以降は、事実を率直に認めて捜査に協力しているほか、本件犯行及びその当時の生活態度についても深く反省するに至っていること、〈3〉地元住民の要望により、被告会社においてマンション建設用地として購入した土地を公共の用途に供するため採算を度外視して大宮市土地開発公社に売却し、地域社会に貢献していること、〈4〉被告会社名義で社会福祉法人埼玉県共同募金会に対し三〇〇〇万円の贖罪寄付をしていること、〈5〉被告人石関の存在は被告会社並びに妻美智子と二人の子供及び内妻平山こと石関智恵子と二人の子供にとって重要であること、」と被告人石関建治に有利な量刑理由として具体的に認定している。にもかかわらず、一審の被告人石関建治に対する懲役二年の実刑判決を相当としている。

これでは、何のために被告人石関建治に有利な量刑理由を詳細に認定したのか。この量刑認定がその法律効果である量刑に反映されなければ明らかに量刑が著しく不当であり破棄しなければ著しく正義に反する結果となる。

そして、前記一において主張した被告人石関建治に有利な最大の理由である。本件土手町物件及び宮町物件の二取引が解釈上充分正規の取引とも認められるという点を考慮すれば、原審の量刑は明らかに甚だしく不当であり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると考えられる。

二 被告人恒川清について

1 前記第二点一1記載のとおり、仮に一〇〇歩譲って土手町物件及び宮町物件の各不動産取引が解釈上、最終的に架空取引と判断されたとしても、そこには解釈上の問題があり明白なダミー利用による仮装行為でないのなら、充分情状において被告人恒川清の刑責を考慮しなければならないものといわなければならない。

2 被告人恒川清についても、一審判決と原審とではその量刑理由においてかなりの差が見られる。

しかも一審において被告人恒川清の場合は、被告人石関建治がある程度被告人石関建治にとり有利な量刑理由の認定を受けているのに比べ、実行行為にさほど関与しなかったことだけしか被告人恒川清にとり有利な量刑理由の認定はなかった。これに対し、原審は被告人恒川清にとって有利な量刑理由として、〈1〉本件当時、暴力団からの借金取立を受け、切羽詰まった状況に追い込まれていたこと、〈2〉勾留七日目以降は事実を認め、本件犯行及び当時の生活態度について反省の態度を示していること、〈3〉株式会社茅部商事の昭和六二年七月期から平成元年七月期までの法人税、法人事業税、法人県民税等を完納していること、〈4〉家族、友人から減刑嘆願書が寄せられていること、を具体的に認定している。右〈1〉乃至〈4〉記載のとおり被告人恒川清にとり有利な量刑理由があるにもかかわらず、原審の被告人恒川清の量刑が一審の量刑と同一ということは絶対にあり得ない。特に被告人恒川清が本件を反省している場合と反省していない場合においては相当程度量刑において差が認められるはずである。一審は被告人恒川清が本件を反省していないとの前提で量刑判断をしているが、原審は逆に被告人恒川清が本件を反省していると積極的に認定している。そうであるならば、原審は一審を破棄し、被告人恒川清の量刑を軽くすべきであったのである。したがって、1記載の事実と考え併せれば原判決の量定が甚だしく不当であって、これを破棄しなければ著しく正義に反すると断言できる。

三、被告会社について

1 前記第一点二及び三に記載したとおり、本件土手町物件及び宮町物件の不動産取引が仮装取引ではない以上被告会社も無罪である。

そして、前記第二点一1記載と同様に、仮に百歩譲って右二取引が仮装行為であるという最終的解釈に至ったとしても、その解釈は争いのある問題点の解釈であった以上、被告会社についてもこの点を充分情状において考慮しなければならない。

2 そして被告会社についても第一審と原審とではその量刑理由に大変な差がある。一審においては被告会社にとって有利な量刑理由は全くなく、それがため罰金一億七、〇〇〇万円という極めて重い判決が言い渡された。これに対し、原審「〈1〉昭和四五年の設立以来、その営業活動を通じてそれなりに地域社会に貢献してきたものであるところ、同五〇年代後半以降の不動産不況により金融機関の信用を維持するための粉飾決算や人員削減のやむなきに至るなどの苦しみを嘗めており、好況に恵まれた当期において、偶々二物件の取引で獲得した望外の利益を温存し、将来の不況に備えたい気持ちに駆られたものであること、〈2〉原審段階において本税の大部分を納付している上、引き続き納付に努力し、当審において本税一二億〇〇五七万二五〇〇円を完納するに至っていること、〈3〉国税局出身の税理士を顧問に迎え、税務申告に過誤のないことを期する態勢を整えていること」と具体的かつ詳細に被告会社に有利な量刑理由を認定している。一審と原審にはこのように被告会社の量刑理由に極端な差があるにもかかわらず、原審は一審の罰金一億七、〇〇〇万円という量定を維持している。これは1記載の事実と考え併せれば明らかに原判決の量定が甚だしく不当であってこれを破棄しなければ著しく正義に反すると断言できる。

3 原審は「被告会社名義で社会福祉法人埼玉県共同募金に対し三、〇〇〇万円の贖罪寄付をしていること」を被告人石関建治にとり有利な量刑理由として指摘している。もちろん、右事由は被告人石関建治に対する有利な量刑理由であるがそれは同時に被告会社にとっても極めて有利な量刑理由である。すなわち、右贖罪金三、〇〇〇万円を拠出したのは、飽くまで被告会社であり、これを被告会社の有利な量刑理由として認定しないのは極めて不当な判断である。

そして、右金三、〇〇〇万円の贖罪金は好況のため使用され、広く国民の福祉の向上に役立てられている。被告会社としては、右金三、〇〇〇万円の贖罪金を支払う義務があったわけではなく、善意な気持ちから支払われたものである。他方被告会社に処する原審判決の罰金一億七、〇〇〇万円は刑罰ではあるものの、国庫に収入として計上され、広く国民の生活のために使われる。被告会社が支払った金三、〇〇〇万円が贖罪金として支払われている以上、被告会社の罰金刑の量刑において特にその点を考慮すべきである。この場合、贖罪金を支払える人が量刑において有利に扱われるのは不公平であるとの批判は譲らない。被告会社は法人でありその金三、〇〇〇万円を罰金の一部として支払っても贖罪金として支払っても被告会社の負担は変わらないからである。

4 被告会社は被告人石関建治の個人会社ではない。多くの従業員、取引先、関連会社及びその従業員並びにそれらの家族の生活の基礎であり、仮に被告会社が倒産すれば被告人石関建治以外の何の罪もない人々が路頭に迷う結果となる。

被告会社は現在の不動産不況の煽りをまともに受け、しかも被告人恒川清の側へ金七億三、〇〇〇万円もの利益が渡されながらも、本件の事業年度の本税一二億〇〇五七万二五〇〇円他の完納をしたため、極めて経済的に苦しく、本件罰金の支払能力はない。判例の中には支払能力がない場合、罰金刑が科せられていない事例もある以上、被告会社についても充分考慮すべき点である。

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